〜あれから、いくつもの思いを重ねて。心より平穏を、小さな灯りを灯せますよう〜

短歌や詩、日々の可笑しみ

モノクローム文芸館

「Pohohohoooo!!!!」


つんざくようなクラクションで、利弘は我に返った。彼、山本利弘は、この十年間と言うもの、音大を出てからの十年間、交通整理のアルバイトをして過ごしている。始めは、ただ給料が良いからと言う理由で始めたアルバイトだった。過ぎていく日々の大半を小さな街の路地裏で過ごして。

利弘は、学生時代、と言うか今現在もなのだが、オーケストラの指揮者を志していた。それなのに、なぜこうゆう音楽とは関係のないアルバイトをしているのか。その理由の大半はお金だったことは否めないだろう。しかしながらも、彼は、ある時期から、この仕事に楽しみを見出していたことも事実なのだ。


「とし、今からバイト?」

「あぁ、今日は夜勤だよ」

「そっか、今週の土曜とか空いてる?」

「うん、問題が起こらなきゃ休み」


そうゆう会話をくり返すでもなく浮かべながら、仕事をして過ごした。今日は土曜日だ。またカラオケにでも行くのかと思ったら、どうやら違ったらしい。今日は、地元の文化会館で、後輩が加入している楽団のチャリティコンサートが開かれるらしいのだ。そいつとは、学生時代からの知り合いだから、もうかれこれ十年来の知り合いと言うことになる。後輩の方が先に立身出世することも多い、この業界において、こうゆう機会は少なくないのだ。

会場の傍らにある喫茶店で待ち合わせをした。店内には、見るからに浮世離れした、作曲家とも芸術家ともおぼつかないようなゴロツキから、普通の学生、サラリーマン風の人、老夫婦や音楽講師だろうと察しが付く中年など、様々な色味を帯びているのだが、それでも、クラシカルなコンサートであるから、音楽屋さん独特の空気が漂っていた。それは、まぁしかし、私の色眼鏡なのかもしれないのだが。


「ごめん、遅れた」

「や、全然待ってないから大丈夫だよ」

「ま、そう決まり文句みたいに言うなよ」

「もちろん、待ったけどな」


これと言った面白みもない二人が、揃いも揃って白シャツなんか着て来るもんだから、会話も多少ブラックにならざるを得ないのだろう。黒いシャツでも着ていたら、スマートでクリーンな色男になれるのだろうか。そんなことを取り留めもなく考えながら、お決まりの沈黙を保っていた。私たちはいつも、会話がなくても気にしない、と言うスタンスで会っているのだ。とは言え、二人が口下手であるから必然でもあるのだろう。それでも、手より先に口が動くような性格なら、元々音楽なんてやっていないのかもしれない。そうゆう考えが、なんか格好いい気がして好きなのである。実は、音楽に会話能力なんて微塵も関係していないことは、内心分かってはいるのだが。ま、どちらも口には出さないのであるから、内心思っていることの、更に内心であって、そうゆうことはいよいよ面倒な話になって来てしまう私の悪い癖である。そんでも、癖に良いも悪いもないのだろうが。


「今日は、あいつの曲目が入ってるぞ」

「誰だよ」

「小湊慎也、新曲だってな」

「そっか、すげぇよな、あいつは」


小湊慎也、この名前は、ちょっとでも音楽をかじっている奴なら、知らない奴はいないだろう。私と同い年で、二十代の半ばに、ドイツの音楽祭で、新人賞を取って凱旋帰国し、今では、CMや映画など様々な場面に彼の曲を聴くことが出来る。いわゆる、職業としては、作曲家と呼ばれる活動をしている。私のコンプレックスを象る一人でもあるのだ。そう言いながらも、実はちょいちょい彼の音楽をipodでリピートしていたりもするのだが。


「こないだの新曲はいまいちだったな」

「あぁ、最近はちょっとパッとしないかもな」

「お前、音楽は最近どうなんだ?」

「俺か?」

「ま、お前しかいないよな。俺の話してる相手は」

「うん、少し休んでるかな」

「そっか、たまには、また舞台上がればいいのに」

「色々あってな」

「だよな」



~to be continued~
スポンサーサイト
テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
  1. 物語
  2. / trackback:1
  3. / comment:0
  4. [ edit ]

「おはよう、、」


 昨日から降り続いた雨は、佳代の瞳を曇らせるに十分だった。将樹は、二週間前に買ったばかりのジーンズの裾ばかりを気にしていた。汚れ具合が気に入らないジーンズは、襟足のハネ具合が気に入らない髪型と同じくらい気に入らないと言わんばかりだ。

 佳代は、湿気で丸く跳ね上がる自分の髪型に子供の頃から、異常なコンプレックスを持っていた。今日も将樹が足下を気にする度に、襟足を否定されているような意味の分からない反応を隠せないでいた。街角ですれ違う人誰もが自分の襟足を見つめてほくそ笑んでいる気がする。将樹が足下を気にするのは、そんな周囲の視線を少しでも自分の足下へ向けさせるための入念な心遣いだと悟った。


「ありがとう、、」


 突然の言葉に驚いた将樹は、水たまりを跳ね上げないように、ジーンズが汚れないように気を付けて歩く自分の仕草が、隣を歩く佳代への気遣いかと思われたのかと思い、恥ずかしくなった。自分はジーンズのことしか考えてないのに。街角ですれ違う人誰もが自分のジーンズを見てほくそ笑んでいる気がする。佳代が襟足を気にするのは、そんな周囲の視線を、、いや、いつものことだ。将樹は、自分の自意識過剰を悟られないように、髪をくしゃっと一回直して、横目に見えるカフェの名前を記憶に辿ってみた。


 「入ろうか?」


 そのカフェは、一度前に来たことがある。前に来たときは、雲間に差し込む太陽の午後だった。それより佳代は、将樹が髪を直した瞬間の言葉に、否定のニュアンスを感じていた。以前、この店に来たときは、マスターが自分の髪型をやたらよく褒めてくれていたのだ。あてつけにしか思えなかった。思い切りブラックジーンスの裾を地面に蹴り付けるように、入り口を入った。あてつけのように。


「いらっしゃいませ」


 席に付いた瞬間、将樹は記憶を辿った。そうだ、この店のマスターは、前に佳代の髪型をよく褒めてくれていたんだっけ。案外、悪くない選択だったな。佳代も幾分、嬉しそうだし。入り口でも、汚いのは将樹のジーンズだけじゃないよって優しく遠回しな態度で示してくれた。今日もいい日になりそうだ。


「ありがとう」
テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
  1. 物語
  2. / trackback:0
  3. / comment:0
  4. [ edit ]

ギタンギタン。シュー。ギタン。ゴトスカ。ヒュー。

町外れの薄焼けた踏切を三両の列車が通り過ぎた。踏切が渇いた音を立てて持ち上がると、小松良平はいかにもダルそうに歩き出した。営業マン風の男が、足早に過ぎ去った。お洒落なウーマンが速やかに行き過ぎた。

良平は、手紙をしたためていた。誠実な恋文を郵便局に持っていく所だった。
ポストではなく。郵便局へ。誠実に。

だが、お洒落なウーマンはあまりにお洒落だった。良平は、あまりに誠実だった。
そして、見とれていたせいか手紙を踏切に落としてしまった。うっかりしていた。うっとりしていた。ミニチュアダックスフンドを散歩中の老紳士が心なしか微笑んで横切っていった。ハンチング帽が推理小説みたいで、良平は心昂ってきた。

気が付くと、お洒落なウーマンを振り返っていた。アンニュイなゆるいウェーブパーマが渇いた日射しに踊っているようだった。それを見たとたん誠実じゃなくなってしまった手紙は、そのまま踏切に預ける事にした。受け取りにくるのが、誠実さってもんだろう。そう誓いながら。

そんなウーマンの後ろ姿に、二秒半見とれた後。三メートル後ろを忍び足。素敵な人には、誠実な男がよく似合う。誠実に距離を保ちながら、誠実に襟を正し、歩を進めていった。

フレアスカートは、ライトグリーンの初恋の色。まるで出会いは図書館の中。偶然、触れた右手と左手。お洒落なウーマンには、洋書がよく似合う。英語が話せない事は、最初に誠実に断っておこう。良平は、引け目を感じないように、日射しに瞳を細めた。

良平は、運命を信じなかった。占いとかは、、好きだった。今日の運勢は、星三つ。いいか悪いかは、心がけ次第。誠実一路。こんな出会いは、日々の行いの良さが導いたものだろう。誠実に、また後ろからついていく事にした。

ところがどっこい。お洒落なウーマンは、こんなにお洒落なのにもかかわらず寄り道もせず、アパートまで来てしまった。鍵を開けていたから、自宅だろう。推測予測。憶測蛇足。ここは誠実に、ドアをノックして全てを打ち明けるか。いや、むしろ誠実にドアの前で再びの外出を待つか。うむ、やはり打ち明ける方が誠実だろう。

良平は、誠実にチャイムを鳴らした。ピーンポーンパーン。誠実な音色が響き渡った。我ながらなかなか誠実だな。

「はーい。」

お洒落な声だなぁ。さすがお洒落なウーマンだ。
ゆっくりドアが開かれた。。。





エンジのジャージでお出迎え。お、洒落な、、





良平は、思った。誠実に。





なんてお洒落なウーマンなんだ、、やっぱりお洒落だ、、



テーマ : ショートショート    ジャンル : 小説・文学
  1. 物語
  2. / trackback:0
  3. / comment:4
  4. [ edit ]

NEW ENTRY  | BLOG TOP |  OLD ENTRY

プロフィール

モノクロ

Author:モノクロ
ふとした日々の、ふとした言葉。「モノクローム文芸館」です。


・ご意見ご感想もお待ちして居ります。
~モノクロ書簡~

天気予報

時刻

月別アーカイブ

バイオリズム

FC2カウンター

放射線量計

ブロとも申請フォーム

ブログ内検索

« 2017 04  »
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -