〜あれから、いくつもの思いを重ねて。心より平穏を、小さな灯りを灯せますよう〜

短歌や詩、日々の可笑しみ

モノクローム文芸館

「おはよう、、」


 昨日から降り続いた雨は、佳代の瞳を曇らせるに十分だった。将樹は、二週間前に買ったばかりのジーンズの裾ばかりを気にしていた。汚れ具合が気に入らないジーンズは、襟足のハネ具合が気に入らない髪型と同じくらい気に入らないと言わんばかりだ。

 佳代は、湿気で丸く跳ね上がる自分の髪型に子供の頃から、異常なコンプレックスを持っていた。今日も将樹が足下を気にする度に、襟足を否定されているような意味の分からない反応を隠せないでいた。街角ですれ違う人誰もが自分の襟足を見つめてほくそ笑んでいる気がする。将樹が足下を気にするのは、そんな周囲の視線を少しでも自分の足下へ向けさせるための入念な心遣いだと悟った。


「ありがとう、、」


 突然の言葉に驚いた将樹は、水たまりを跳ね上げないように、ジーンズが汚れないように気を付けて歩く自分の仕草が、隣を歩く佳代への気遣いかと思われたのかと思い、恥ずかしくなった。自分はジーンズのことしか考えてないのに。街角ですれ違う人誰もが自分のジーンズを見てほくそ笑んでいる気がする。佳代が襟足を気にするのは、そんな周囲の視線を、、いや、いつものことだ。将樹は、自分の自意識過剰を悟られないように、髪をくしゃっと一回直して、横目に見えるカフェの名前を記憶に辿ってみた。


 「入ろうか?」


 そのカフェは、一度前に来たことがある。前に来たときは、雲間に差し込む太陽の午後だった。それより佳代は、将樹が髪を直した瞬間の言葉に、否定のニュアンスを感じていた。以前、この店に来たときは、マスターが自分の髪型をやたらよく褒めてくれていたのだ。あてつけにしか思えなかった。思い切りブラックジーンスの裾を地面に蹴り付けるように、入り口を入った。あてつけのように。


「いらっしゃいませ」


 席に付いた瞬間、将樹は記憶を辿った。そうだ、この店のマスターは、前に佳代の髪型をよく褒めてくれていたんだっけ。案外、悪くない選択だったな。佳代も幾分、嬉しそうだし。入り口でも、汚いのは将樹のジーンズだけじゃないよって優しく遠回しな態度で示してくれた。今日もいい日になりそうだ。


「ありがとう」
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
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